★ 私儀、甚だ多用にて ★

★ あとがき ★

作品にエンドマークを付けてから、そろそろひと月がたとうとしています。
執筆はもともと肉体労働なのですが、この作品は長編のせいも有り、レンガを積み上げていくような作業でした。
最後の1個を積み終わった瞬間の感激は特には無かったです。淡々と積んでいき、そろりそろりと離れて全体を眺めるという感じでした。既に編集者モードに入っていたのかもしれません。

ドラマや映画の時代劇も全く見ず、時代小説も全く読まず。その世界に興味さえなかった私が、江戸時代を舞台に小説を書くなど、正気の沙汰ではありませんでした。
恥ずかしいほど何も知りませんでした。マイナスからのスタートでした。
そしてまたその題材が、平賀源内。彼のことを調べるというのは、森羅万象を調べるのに似ていました。彼の業績を理解する為には、あらゆることを調べねばなりませんでした。
膨大な時間がかかりましたが、政治や歴史も、草花や鉱物も、焼物も織物も浄瑠璃も浮世絵も。調べれば調べるほど面白くて楽しかったです。このとんでもなく偏った(笑)知識は、きっと私の財産となってくれるでしょう。

大変なのを覚悟しても書こうと思ったのはもちろん平賀源内が好きだったからですが、一番の理由は、殆どの研究書もフィクションも源内が不幸だったと決めつけていたからです。
何にも属さず「平賀源内」という人生を生きた唯一無二の男。
何かに属さないことはそんなに不幸なことなのか?何石何扶持が増えることが、人間の幸せなのか?
これは現代でも常々疑問に思っていることです。
たくさんのことに興味を持って一生懸命取り組み、うまくいったりいかなかったりして、泣いたり笑ったり恋をしたりして生きた源内。
風を感じて生きた彼は、幸福だったんじゃないかな、と思っています。
三年近くもずっと彼の人生を書き続けたわけですが、まるで彼と一緒にその人生を駆け抜けたようで、とても楽しかったです。

残念なのは、とても長い小説なので、たぶん私以外は読者がいないんだろうなあということ(笑)。
人の意見を聞けないというのは、推敲するにも少しハンデがあります。
この小説は、切り出した大木のようなもの。ここから、色々な物を細工してもう少し読みやすい形で世の中に出せればなあと思っています。

100人のうち99人が不幸だと指差す人生も、1人から見たら違うのかもしれません。
自分の人生もそんな風に信じられたらいいなと思います。

では、またどこかで。
福娘紅子
2008.5.1


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